『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 第7章:凍結弾頭
第7章:凍結弾頭
零度の空気が支配する地下最深部。
そこには冷却液に満たされた巨大な凍結弾頭の格納庫があった。
無音の空間に足音一つ響かず、ノーラ・ヘイスティングス中佐は静かに侵入していた。
彼女はすでに白い郡洋服も軽量アーマーも脱ぎ捨て、体操着のような白いノースリーブハイレグレオタード姿。
その身軽さが、戦場における“機能美”として完成していた。
格納庫には中国軍の特殊部隊兵士8名。
武装は強化型アサルトライフルと冷却グレネード。
この任務区域の最深警備――だが、ノーラはまったく臆していない。
彼女はその場に立ったまま、静かに吐息をひとつ。
次の瞬間、閃光のように前方へ跳び出した。
ズバッ! ドガッ! ギィィン!
鋭い回転キックで一人の顎を砕き、
背後に迫った敵をコンバットナイフで逆手に切り裂く。
もう一人が銃を構える前に、ノーラは空中で一回転し、両足でその腕をへし折った。
柔らかな動き、だが一撃一撃が殺意の塊だった。
最後の一人が悲鳴を上げかけた瞬間、
ノーラは足場のパイプを蹴り、壁を蹴り、宙を舞い、
踵落としのような跳躍技で頭蓋を粉砕。
全ては、わずか17秒。
冷却蒸気が立ち込める格納庫に、ノーラは静かに立ち尽くす。
その白い姿には返り血ひとつ付いていない。
床には、崩れ落ちた敵兵の骸。
無線も沈黙し、警報も鳴らなかった。
すべては“完璧な静音制圧”だった。
ノーラは軽く鼻で笑い、小さく言い放つ。
「……やっぱり、“誰かと一緒”ってのは性に合わないわね」
「それとも、あの中尉……まだ“数”に頼ってるの?」
凍結弾頭の装置前に立ち、ノーラはスキャンコードの偽装機を起動する。
「目標制圧完了。破壊工作に移行する――あとは、時間の問題」
冷たい目。冷たい言葉。
そして、冷たい任務。
だがその背中には確かに、“人間性を捨てた戦士”としての影が刻まれていた。
制圧を終えた凍結弾頭格納室。
周囲には敵兵の亡骸が静かに転がり、冷却蒸気が足元を這っている。
ノーラ・ヘイスティングス中佐は、破壊工作用のタイマーを装置の中心部に設置しながら、淡々とひとり言を呟いた。
「やっぱり……一人の方が戦いやすい」
工具も使わず、手作業で爆破コードをねじ込み、内部回路を切断。
まるで軍用マシンのような正確さ。
「中尉がどうなろうと、あたしには関係ない」
「死ぬならそれまで。戦場に運を持ち込む奴から、先に死ぬ」
ノーラは軽く肩を回し、返り血一つないレオタード姿のまま、静かに立ち上がった。
胸の軽量アーマーが軋む音だけが、広い格納庫に響いた。
彼女の目には、一切の迷いも、情もなかった。
ハリントン・ハリスという名の男も、戦場で何を思っていたかも──今の彼女にはどうでもよかった。
「あたしは“生き延びる”ことだけを考える。あの男のように“誰かを気にする”余裕なんて、とっくに捨てた」
静かに、ノーラは背を向けた。
タイマーのランプが赤く点滅し、残り時間をカウントし始める。
そして──彼女は冷気の立ち込める通路へと、ただ一人で歩き出した。
背中にあるのは、任務だけ。
“誰か”を救う意志ではなく、“目的”だけを果たす意志。
彼女の白い戦場服が闇に溶けていく頃、ただひとつ残された言葉が空気の中に残った。
「味方なんてものは、最初から存在しないのよ」
タイマーのカウントが、ついに**「0」**を指した。
直後──
ドォン――!!
鈍く低い音とともに、凍結弾頭格納庫が爆発。
鋼鉄のパイプが裂け、冷却装置が吹き飛び、氷結した破片が飛び散る。
爆風は吹雪のように周囲を飲み込み、地下空間全体が轟音に包まれた。
その爆発の中心から、ひとつの影が跳ねるように浮かび上がる。
ノーラ・ヘイスティングス中佐――
彼女は、爆発を背に、躊躇なく跳躍した。
白いレオタード姿の身体はしなやかに宙を裂き、
風を切りながら空中で美しく回転する。
まるで一輪の白い花が、凍てついた戦場で静かに開いたかのようだった。
髪が弧を描き、光を反射する胸の装甲が閃く。
そして着地。
タンッ……!
ブーツが氷の床を叩き、彼女の身体が静かに沈むように着地を完了する。
爆風は背後でなおも吹き荒れていたが、彼女の表情は変わらなかった。
目は前を見据え、口元にはごくわずかな笑み。
冷たく、皮肉めいた笑み。
「……これでひとつ、片付いたわね」
振り返ることもなく、ノーラは再び歩き出す。
その背後に、破壊された敵基地の残骸が雪のように舞い落ちていく。
彼女にとって、戦場はただの“仕事”であり、“芸術”でもあった。
そしてあのジャンプは、その冷徹な生き様を象徴する白い閃光だった。
