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『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 

『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 第12章:雪原の先へ

第12章:雪原の先へ
冷たい風が、白銀の戦場を吹き抜けていく。
ハリントン・ハリス中尉の手には、さきほど地面に落ちたノーラ・ヘイスティングスグリーンベレー帽。

その瞬間、風を切る音が頭上から聞こえた。

シュッ……タン!

宙を舞うように現れた影――ノーラだった。

白銀の空から華麗な回転ジャンプで着地した彼女は、身体にわずかに残っていた白いノースリーブレオタードの破れた布すらも、無言で引き裂き、捨てた。

だが、彼女の表情には羞恥や動揺の色は一切なかった。

傷だらけの身体、凍える風。
しかし、ノーラは堂々と、戦いを終えた兵士の眼差しでハリントンを見据えていた。

そして、わずかに口角を吊り上げて――嘲笑した。

「何? 中尉、今さらその帽子で感傷かしら?」

ハリントンは帽子を見つめながら答える。

「……お前が死んだかと思っただけだ」

ノーラは肩をすくめ、雪の上にそのまま座り込む。

「そう見せただけよ。ま、あんたみたいな男は、安心させるにはちょうどいい爆発だったわ」

ハリントンは一歩、彼女に近づいた。

「武器も、服も捨てて……お前は、次にどこへ向かう?」

ノーラは目を閉じて、雪の冷たさを感じるように息を吐いた。

「任務は終わった。記録も、戦果も、意味も、全部。
いま残ってるのは……この雪と、この風と、この皮膚の感覚だけ」

彼女は再び、ハリントンを見た。

「ねえ中尉。
“人間”って、最後は何に帰ると思う?
任務? 国家? それとも――ただの“肉体”?」

ハリントンは答えられなかった。
ノーラの言葉は、戦場の空気と同じように、凍てついていた。

 

白銀の静寂が、戦いの熱を冷やすように辺りを包んでいた。

ノーラ・ヘイスティングスは、何も纏わぬ身体で、吹きすさぶ雪を物ともせず立っていた。
だが彼女の表情は、どこか乾いていた。
感情も、温もりも、痛みすらも――まるですでに捨て去ったかのように。

ノーラ
「この戦争が勝とうが負けようが、私には関係ない。
愛?――そんな幻想、最初から持ち合わせていないわ」

彼女は静かに前方を見つめる。

「“愛”を持つ者から死んでいくのよ。
弱さを抱えて、止まるから。あたしにはそれが無い」

そしてノーラは、全身を緊張させた。

崩れかけた鉄骨の先、40メートル下の瓦礫地帯を見下ろす。

ヒュウウ……ッ

次の瞬間、ノーラは――純白の体操着の残響をなびかせながら、空中へ飛び出した。

美しい回転ジャンプ。

まるで重力から解き放たれたかのように、空を舞う。

彼女は音もなく着地し、そのまま雪原の中を駆ける。
視界の端から、静かに、確かに――その姿は消えていった。

ハリントン・ハリス中尉は、遠くを見つめたまま、ただ立っていた。

彼女が去った雪原には、もう足音も残されていない。

しばらくして、ハリントンはゆっくりと背を向けた。
下り階段を降り、雪と血と鉄の臭いが染みついたアンカレッジ前線基地へと帰還する。

彼の右手には、あの白いグリーンベレー帽が握られていた。

こうして、ハリントンとノーラの戦いは幕を閉じた。
そして――彼が再びノーラ・ヘイスティングスと出会うことは、なかった。

 

ノーラ・ヘイスティングス中佐による
迫撃砲三門の単独破壊作戦は、
正式な軍事記録には一切残されていない。

◉ 歴史に記録されたのは「ネイト・カークランド大佐」
ノーラによる情報工作部門(記録操作部:VZ-12)は、以下のような記録捏造を実行した:

作戦名の改竄:本来のコード「WHITE HELL」→報告上は「OPERATION: NORTHERN PILLAR」に差し替え

役職偽装:ネイト・カークランドは当時軍曹(Sergeant)であったが、報告上は臨時昇格大佐として記録

単独作戦の書き換え:ノーラの隠密行動を排除し、代わりに「連絡・統率による爆撃誘導」による作戦成功と捏造

「ノーラ・ヘイスティングス中佐の存在自体が、記録の“外”に置かれたのだ。
彼女は戦争を勝たせてはならなかった。“証明”してはならなかった。」

◉ 捏造された英雄伝
書類上の報告では:

ネイト大佐は、海軍偵察機と連携し、
戦域内の妨害電波施設を破壊→誘導爆撃に成功したことになっている。

爆撃成功の報として、**“戦術単位指揮における模範功績”**の記章が追贈されている。

「大佐」としてのネイトは、書類と写真の中でしか存在しない。
実際には、彼自身すら“作戦成功”の真相を知らされていなかった。

◉ なぜノーラはそれを許したのか?
理由は記録に残っていない。
ただ一つ、冷たい記録の片隅にだけ、ノーラ自身の言葉が残されていた:

「勝利なんてどうでもいい。人間なんて名前で騙せる。
……この世界は、真実じゃなく、物語を信じたがるだけ。

英雄の言葉にあたしの名前など要らない」
― DS-001 / Nora Hastings