『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 第26章「裸」
第26章「裸」
倒れた中国兵の血が、鉄板の上にじわじわと広がっていく。
銃声の残響がまだ耳の奥に残る中、ハリストン少佐は静かに銃口を下げた。
彼の視線は、その場からすでに姿を消した“女”のいた方向を見つめていた。
──あの目、あの動き、あの冷たさ。
「……まさか、あれが……ノーラ中佐……」
軍服を脱ぎ捨てた、戦闘に特化した肉体。迷いのない殺意と、生身のまま戦場を駆ける冷徹さ。
あれは紛れもなく、かつて自分の部隊にいたノーラ・ヘイスティングス中佐その人だった。
だが、その名を知る者はここには一人しかいない。
ネイト・カークランド軍曹――ノーラの「夫」であり、かつての彼女を**“ただの弁護士”**と思っている男。
ネイトが死体に近づき、目を伏せたまま呟いた。
「いったい、誰がこんな……」
ハリストンは一瞬だけ口を開きかけた。
だが、思いとどまり、かすかに眉を寄せた。
「……軍曹、今は余計なことを考えるな。」
「……でも、あの兵士、何かを言いかけて――」
「いいか、ネイト。任務を優先しろ。」
静かだが、揺るがぬ声だった。
あえて真実を告げなかったのは、ネイトを守るためか、それとも任務を遂行させるためか。
そのどちらでもあった。
ネイトは口をつぐみ、黙ってうなずいた。
まだ、自分の“妻”がこの戦場を裸で駆けているとは知らずに――。
沈黙に満ちた装甲通路を、第108連隊は慎重に進んでいた。
足元には崩れた鋼鉄、崩落した天井、そして散乱する死体。
中国兵の遺体はあちこちに転がり、その多くは明らかに「銃撃」以外の手段で殺されていた。
ネイトは息を呑んだ。
「……誰が、こんなことを……」
ハリストンは無言のまま前を見据え、心中で再びノーラの影を振り払う。
今は、任務だ。
やがて、最後のドアが軋むような音を立てて開かれる。
鋼鉄の厚みの向こう、吹きさらしの雪原の先に広がる構造物が姿を現した。
「……あれが……キメラ補給基地。」
約200メートル先、氷と鋼鉄で固められた巨大な施設。
高架の燃料タンクと輸送車両、監視塔、無人輸送レールが複雑に絡み合っていた。
その瞬間、スナイパーが息を潜めてトリガーを引いた。
パン。
一発、さらにもう二発。
三人の中国兵が瞬時に沈黙した。
「警戒解除区域、前方クリア。」
無線の短い報告を合図に、マシンガン担当とミサイル兵が左右に展開。
ネイトとハリストンは中央を突き進み、連携して目標に接近した。
「各自、タンクに爆薬設置。3か所、優先的に制圧する。」
命令が飛ぶと、兵士たちは訓練された動きで燃料タンク周囲に潜入。
それぞれの地点に時限爆弾が丁寧に、確実に設置されていく。
冷たい風に混じって、機械の低い駆動音が唸りを上げた。
誰もが感じていた。
──これはただの破壊ではない。
この爆破が、戦局を根本から変える。
だが同時に、見えない“敵”がまだ近くにいることも、誰もが理解していた。
そして、誰よりも強くその“気配”を感じていたのは――
ハリストン少佐だった。
(……ノーラ中佐、お前はどこまで俺たちを導こうとしてる……)