『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 外伝・終章『記録なき者』
外伝・終章『記録なき者』
AD2287年10月31日 マクレラン法律事務所 地下四階
荒廃した連邦の地下、アクセス権限L-4を超える者は存在しないはずだった。
だが――**“偽装された存在”**だけが、そこへ入ることを許された。
ネイト・カークランド大佐。
かつては軍曹。
かつては、ただ戦いを生き延びた兵士の一人。
しかし今、歴史は彼を「大佐」へと書き換えた。
――“ノーラ・ヘイスティングス中佐”という存在を削除することで。
コンソールに刻まれた記録。
【中佐:ノーラ・ヘイスティングス → データ抹消】
【伍長:ノーラ・エリス(Clarissa Amaria Moran) → 登録済】
【階級変更:N. カークランド軍曹 → N. カークランド大佐】
【備考:Project Sentinel適格者。全AIリンク承認。】
ネイトは、記録を辿ることはできた。
だが、真実へは辿り着けなかった。
かつてノーラ・ヘイスティングスが使用していた個人オフィス。
ほこりにまみれた卓上端末。
だが、その背後の書棚には誰も知らない秘密通路があった。
“Even she never entered this.”
それは、ノーラ本人すら足を踏み入れられなかった領域。
扉の先には、冷たい金属の台座。
格納されていたのは――
改造型 T-65Ω《Ω-SPEC》
ノーラ・ヘイスティングスの全戦闘記録。
回避、体操、格闘、暗殺術、戦術アルゴリズム。
すべてをAIベースで埋め込まれた、人工知能型T65Ωパワーアーマー。
“選ばれし者”のみが装着可能。
NAME:N. カークランド
RANK:COLONEL(大佐)
STATUS:ACTIVE
ACCESS:GRANTED
その瞬間、パワーアーマーが低く起動音を上げ、
内部から女性の声が流れた。
「──あなたが、それを着るのね。ネイト。」
それは、ノーラ・ヘイスティングスの声に酷似した、だがもはや人間ではない声。
「覚えておいて。
次に“あたし”に会うときは、味方ではいられない。
戦うことになるわ。命を懸けて。」
ネイトは静かに階級章を握り締め、
オフィスの天井を見上げた。
そこにノーラはもういない。
彼女の名も、存在も、軍の歴史には刻まれていない。
だが、自分の中には、まだ“彼女”がいる。
「ノーラ……それでも、俺は――
お前のすべてを受け継ぐ。」
そして、記録は終わる。
ノーラという名が失われ、
“Cold Code”の後継者が正式に誕生した瞬間として。
【記録:完全に改ざん済み】
ノーラ・ヘイスティングス中佐:記録消去
ノーラ・エリス伍長=クラリッサ・アマリア・モラン:架空登録
ネイト・カークランド:Project Sentinel認定適格者、大佐
Ωパワーアーマー:認証完了
次の遭遇時:「敵対者」として判定
こうして、“ホワイトヘルス”の記録は抹消された。
だがその技術は、形を変えて、ネイトの中に継承される。
殺し合う運命の再会が、すでに定められているとも知らずに。
刻まれなかった記録
――AD2287年10月31日。
すべてが終わった。
ネイト・カークランド大佐は、マクレラン法律事務所の地下で“最後の記録”とされるものにアクセスした。
だが、それは最初から「空白」だった。
ノーラ・ヘイスティングス中佐。
その名は、もはや存在しない。
彼女の経歴は削除され、代わりに――
ノーラ・エリス伍長
生年:AD2050年
死亡認定日:AD2075年1月18日(戦地にて戦死)
形式:記録非公開、退役対象外
という架空の軍人が、ただ静かに存在していた。
ネイトの戸籍情報にはすでに変更が加えられていた。
配偶者:ノーラ・アンダーソン(CIT関連部局)
記憶再構築:完了
婚姻記録、同居記録、共通財産:法的承認済
かつての妻――ノーラ・ヘイスティングスの面影は、完全に排除された。
記憶も、法も、歴史もすべてが“再編集”された世界。
世界は、静かにノーラを忘れた。
「ホワイトヘルス」――
かつてアラスカ戦争で恐れられた、白き影。
T-65すら破壊した殺戮者。
だがその名は、いまや都市伝説の“神話”にすぎなかった。
誰も信じない。
誰も記録しない。
誰も“彼女”の存在を語らない。
それでよかった。
それが、世界の「選択」だった。
最後の記録(録音記録断片・AIによる復元):
「ねぇ、わかってるのよ……」
「真実なんて、誰も欲しがらない。
真実なんて、歴史の邪魔でしかない。」
「……記録される者は、都合のいい“神話”であるべきだもの。」
「あたしは違う。」
「あたしは殺人鬼。
正義でもない。
英雄でもない。」
「……だから、記憶を残す必要なんてない。」
「誰にも、記憶されなくていい。
それが、あたしにできる唯一の贖罪(しょくざい)よ。」
――記録終了。
そして、その声は二度と再生されることはなかった。
ノーラ・ヘイスティングス。
その名は、電子の海の底に沈み、永遠に“なかったこと”にされた。
だが、ほんのわずかな電磁ノイズだけが、地下の冷たいデータラインに残っていた。
それはまるで、存在の最期に呟いたかすかな、
**「さようなら」**のような――
【記録:完全消去】
ノーラ・ヘイスティングス:抹消完了
ノーラ・エリス伍長:死亡認定済・虚構化完了
ホワイトヘルス:未確認存在、分類「虚構神話」
ネイト・カークランド:大佐、正規記録として承認
再会時フラグ:対立・交戦想定
この物語に記録はない。
語られることもない。
ただ、冷たいコードだけが遺された。
次にその扉が開くとき――
それは、**“真実が暴かれる時”ではなく、誰かが再び“騙される時”**だ。
最終節:時の約束
AD2288年3月22日
ネバダ州・ボルト83 地下格納区画
腐食した鋼鉄の空間。
冷却ポッドの脈動音が深く響く地下最深部。
そこに安置された、巨大なヒトデ型観察型超兵器《PARISARION(パリサリオン)》。
かつてのCold Code計画の最終保険装置。
あらゆる敵対コードを自己学習・記録・再生し、“絶対適応”を行う超兵器。
ネイト・カークランド大佐は、その停止作業のため単独で侵入していた。
Project: Sentinel唯一の適合者として。
だが、その先で待っていた者がいた。
鋼鉄の扉が開く。
火花が飛び、奥から足音が鳴る。
煙と冷気の混じる空気を裂いて、
裸足の足音が乾いた金属の床を叩いた。
現れたのは――
ノーラ・ヘイスティングス。
かつて消されたはずの“中佐”。
記録からも、歴史からも、存在そのものが失われたはずの“亡霊”。
だが彼女は生きていた。
人ではない、**Cold Codeに接続された“AI存在”**として。
その肌には衣服すらなかった。
必要がなかったのだ。
己が肉体そのものが、“兵器”として最適化された存在だったから。
そして、ネイトと視線を交わす。
211年ぶり。
初めての“再会”。
だが、その瞳に宿っていたのは――情ではなかった。
「……ここで会うのね、ネイト。」
その声に、かつての優しさはなかった。
戦場の中で人を殺し続けた者の、研ぎ澄まされた静寂だけがあった。
「もう……あたしたちは、敵同士よ。」
ネイトは構える。
T65Ωパワーアーマーが駆動し、背中で電磁装置が点灯する。
ノーラは裸のまま、戦闘の構えを取る。
回避術、格闘術、暗殺術――
かつて彼女が遺した全データを上回る、**“生きた原本”**がそこにいた。
二人の間で、火花が落ちた。
その瞬間、時は静かに燃え上がるようにして、止まった。
そして――一つの物語が、静かに幕を閉じた。
『FALLOUT COLD CODE』
外伝:アンカレッジ戦争
――完。