『FALLOUT COLD CODE』 外伝:アンカレッジ戦争 ――あとがき
あとがき
これは、ひとつの記録を巡る物語だった。
ノーラ・ヘイスティングスという存在は、軍の記録から抹消された。
英雄ではない。正義でもない。
ただ、冷たい戦場の中で、静かに“結果”だけを残した兵士だった。
彼女の名は記録に残らなかった。
だが、彼女が奪った命の数、遺した影、その存在感は、誰よりも鮮烈だった。
「ホワイトヘルス」
「白き死神」
「神話」
「都市伝説」
どんな名前で呼ばれようと、彼女は何も語らず、笑いながら背を向けた。
「あたしは殺人鬼よ。
人間の都合のいい記憶なんて、残す必要など無いから。」
そして物語の主人公――ネイト・カークランド。
軍曹から大佐へ。
偽装された過去を背負い、
知らぬうちに記録を書き換えられ、
英雄に仕立てられた男。
だが彼は、何も望んではいなかった。
ただ、真実を知りたかった。
ただ、彼女を理解したかった。
この物語は、二人のすれ違いと、
すれ違ったまま再び出会い、“殺し合い”で終わる皮肉の連鎖である。
そしてこの外伝は、本編の“始まりのずっと前”、
冷戦と人間の倫理、そして「正しさとは何か」を問う戦争の記録でもあった。
ノーラの裸身は、何も隠さない。
それは羞恥のなさではなく、
**「偽らない存在」**としての、最後の意思表示だったのかもしれない。
戦争は、いつも真実を塗りつぶす。
正義は、常に都合によって書き換えられる。
そして、記録は誰かの手によって編集される。
それでもこの物語が、
わずかでも「記憶」に残るなら、
彼女もまた、ほんの一瞬だけ“生きていた”ことになるのだろう。
『FALLOUT COLD CODE』外伝:アンカレッジ戦争
完。

『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 外伝・終章『記録なき者』
外伝・終章『記録なき者』
AD2287年10月31日 マクレラン法律事務所 地下四階
荒廃した連邦の地下、アクセス権限L-4を超える者は存在しないはずだった。
だが――**“偽装された存在”**だけが、そこへ入ることを許された。
ネイト・カークランド大佐。
かつては軍曹。
かつては、ただ戦いを生き延びた兵士の一人。
しかし今、歴史は彼を「大佐」へと書き換えた。
――“ノーラ・ヘイスティングス中佐”という存在を削除することで。
コンソールに刻まれた記録。
【中佐:ノーラ・ヘイスティングス → データ抹消】
【伍長:ノーラ・エリス(Clarissa Amaria Moran) → 登録済】
【階級変更:N. カークランド軍曹 → N. カークランド大佐】
【備考:Project Sentinel適格者。全AIリンク承認。】
ネイトは、記録を辿ることはできた。
だが、真実へは辿り着けなかった。
かつてノーラ・ヘイスティングスが使用していた個人オフィス。
ほこりにまみれた卓上端末。
だが、その背後の書棚には誰も知らない秘密通路があった。
“Even she never entered this.”
それは、ノーラ本人すら足を踏み入れられなかった領域。
扉の先には、冷たい金属の台座。
格納されていたのは――
改造型 T-65Ω《Ω-SPEC》
ノーラ・ヘイスティングスの全戦闘記録。
回避、体操、格闘、暗殺術、戦術アルゴリズム。
すべてをAIベースで埋め込まれた、人工知能型T65Ωパワーアーマー。
“選ばれし者”のみが装着可能。
NAME:N. カークランド
RANK:COLONEL(大佐)
STATUS:ACTIVE
ACCESS:GRANTED
その瞬間、パワーアーマーが低く起動音を上げ、
内部から女性の声が流れた。
「──あなたが、それを着るのね。ネイト。」
それは、ノーラ・ヘイスティングスの声に酷似した、だがもはや人間ではない声。
「覚えておいて。
次に“あたし”に会うときは、味方ではいられない。
戦うことになるわ。命を懸けて。」
ネイトは静かに階級章を握り締め、
オフィスの天井を見上げた。
そこにノーラはもういない。
彼女の名も、存在も、軍の歴史には刻まれていない。
だが、自分の中には、まだ“彼女”がいる。
「ノーラ……それでも、俺は――
お前のすべてを受け継ぐ。」
そして、記録は終わる。
ノーラという名が失われ、
“Cold Code”の後継者が正式に誕生した瞬間として。
【記録:完全に改ざん済み】
ノーラ・ヘイスティングス中佐:記録消去
ノーラ・エリス伍長=クラリッサ・アマリア・モラン:架空登録
ネイト・カークランド:Project Sentinel認定適格者、大佐
Ωパワーアーマー:認証完了
次の遭遇時:「敵対者」として判定
こうして、“ホワイトヘルス”の記録は抹消された。
だがその技術は、形を変えて、ネイトの中に継承される。
殺し合う運命の再会が、すでに定められているとも知らずに。
刻まれなかった記録
――AD2287年10月31日。
すべてが終わった。
ネイト・カークランド大佐は、マクレラン法律事務所の地下で“最後の記録”とされるものにアクセスした。
だが、それは最初から「空白」だった。
ノーラ・ヘイスティングス中佐。
その名は、もはや存在しない。
彼女の経歴は削除され、代わりに――
ノーラ・エリス伍長
生年:AD2050年
死亡認定日:AD2075年1月18日(戦地にて戦死)
形式:記録非公開、退役対象外
という架空の軍人が、ただ静かに存在していた。
ネイトの戸籍情報にはすでに変更が加えられていた。
配偶者:ノーラ・アンダーソン(CIT関連部局)
記憶再構築:完了
婚姻記録、同居記録、共通財産:法的承認済
かつての妻――ノーラ・ヘイスティングスの面影は、完全に排除された。
記憶も、法も、歴史もすべてが“再編集”された世界。
世界は、静かにノーラを忘れた。
「ホワイトヘルス」――
かつてアラスカ戦争で恐れられた、白き影。
T-65すら破壊した殺戮者。
だがその名は、いまや都市伝説の“神話”にすぎなかった。
誰も信じない。
誰も記録しない。
誰も“彼女”の存在を語らない。
それでよかった。
それが、世界の「選択」だった。
最後の記録(録音記録断片・AIによる復元):
「ねぇ、わかってるのよ……」
「真実なんて、誰も欲しがらない。
真実なんて、歴史の邪魔でしかない。」
「……記録される者は、都合のいい“神話”であるべきだもの。」
「あたしは違う。」
「あたしは殺人鬼。
正義でもない。
英雄でもない。」
「……だから、記憶を残す必要なんてない。」
「誰にも、記憶されなくていい。
それが、あたしにできる唯一の贖罪(しょくざい)よ。」
――記録終了。
そして、その声は二度と再生されることはなかった。
ノーラ・ヘイスティングス。
その名は、電子の海の底に沈み、永遠に“なかったこと”にされた。
だが、ほんのわずかな電磁ノイズだけが、地下の冷たいデータラインに残っていた。
それはまるで、存在の最期に呟いたかすかな、
**「さようなら」**のような――
【記録:完全消去】
ノーラ・ヘイスティングス:抹消完了
ノーラ・エリス伍長:死亡認定済・虚構化完了
ホワイトヘルス:未確認存在、分類「虚構神話」
ネイト・カークランド:大佐、正規記録として承認
再会時フラグ:対立・交戦想定
この物語に記録はない。
語られることもない。
ただ、冷たいコードだけが遺された。
次にその扉が開くとき――
それは、**“真実が暴かれる時”ではなく、誰かが再び“騙される時”**だ。
最終節:時の約束
AD2288年3月22日
ネバダ州・ボルト83 地下格納区画
腐食した鋼鉄の空間。
冷却ポッドの脈動音が深く響く地下最深部。
そこに安置された、巨大なヒトデ型観察型超兵器《PARISARION(パリサリオン)》。
かつてのCold Code計画の最終保険装置。
あらゆる敵対コードを自己学習・記録・再生し、“絶対適応”を行う超兵器。
ネイト・カークランド大佐は、その停止作業のため単独で侵入していた。
Project: Sentinel唯一の適合者として。
だが、その先で待っていた者がいた。
鋼鉄の扉が開く。
火花が飛び、奥から足音が鳴る。
煙と冷気の混じる空気を裂いて、
裸足の足音が乾いた金属の床を叩いた。
現れたのは――
ノーラ・ヘイスティングス。
かつて消されたはずの“中佐”。
記録からも、歴史からも、存在そのものが失われたはずの“亡霊”。
だが彼女は生きていた。
人ではない、**Cold Codeに接続された“AI存在”**として。
その肌には衣服すらなかった。
必要がなかったのだ。
己が肉体そのものが、“兵器”として最適化された存在だったから。
そして、ネイトと視線を交わす。
211年ぶり。
初めての“再会”。
だが、その瞳に宿っていたのは――情ではなかった。
「……ここで会うのね、ネイト。」
その声に、かつての優しさはなかった。
戦場の中で人を殺し続けた者の、研ぎ澄まされた静寂だけがあった。
「もう……あたしたちは、敵同士よ。」
ネイトは構える。
T65Ωパワーアーマーが駆動し、背中で電磁装置が点灯する。
ノーラは裸のまま、戦闘の構えを取る。
回避術、格闘術、暗殺術――
かつて彼女が遺した全データを上回る、**“生きた原本”**がそこにいた。
二人の間で、火花が落ちた。
その瞬間、時は静かに燃え上がるようにして、止まった。
そして――一つの物語が、静かに幕を閉じた。
『FALLOUT COLD CODE』
外伝:アンカレッジ戦争
――完。
『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 第37章「終戦」
第37章「終戦」
AD2077年1月20日
――アラスカ戦線終結。
この日、中国政府は正式にアラスカ戦争の敗北を認めた。
血と鉄で塗られた氷原の闘争は、ついに幕を閉じた。
この瞬間がのちに語られることになる。
**「アンカレッジ解放記念日」**として。
戦いの英雄たちは散った。
名を残した者も、忘れ去られた者も。
そして、伝説と化した影――「ホワイトヘルス」は、何処かへと消えていった。
ネイト・カークランド軍曹
第108部隊所属。T-51装着兵。
最終戦後、名誉除隊の処分が下された。
「君の戦いは終わった、軍曹。今後は、必要とされれば――呼ばせてもらう。」
その言葉と共に、彼は予備役としての登録となり、軍から離れた。
戦争の名残が体と心に深く刻まれていたが、
彼の中には、ひとつの選択があった。
“生きることを選ぶ”ということ。
サンクチュアリ・ヒルズ――
マサチューセッツ州、連邦ボストン郊外。
その地にネイトは、政府支給によって新しい住居を与えられた。
住宅地「サンクチュアリ・ヒルズ」
再建計画の一環として軍人や国家功労者に提供された新興区画。
静かな郊外。
白いフェンス。
小さな庭とガレージ。
そして、誰も彼を知らない世界。
ネイトは、少しだけ息をついた。
「……ここが、俺の“帰る場所”……なのか。」
TVのニュースでは、アラスカ戦争の記念式典の映像が流れていた。
爆破された通信施設の跡。
焼け焦げた戦車。
15人の兵士が並んだ記念写真――
その中央に立つのは、かつてのネイト・カークランド軍曹だった。
だが、
ノーラの姿だけは、どこにも映っていなかった。
誰もそれを語らなかった。
誰も彼女を記録していなかった。
あれほど戦場を支配した影は、“存在しなかった”ことになっていた。
そして、ネイトの新しい生活が始まる。
朝のコーヒー。
隣人の挨拶。
犬の鳴き声。
洗濯物の音。
平和。
だが、そこには常に――
**かつての“戦争の影”**が、どこかにあった。
ノーラの記憶。
ホワイトヘルスの真実。
そして、いまだ知らぬ“Cold Code”の胎動。
「これで終わった……わけじゃないんだろうな。
でも、少なくとも今は――静かに息をしていられる。」
戦争は終わった。
けれど、
記録されなかった“彼女の戦争”は――まだ、終わっていない。
『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 第36章 「ジンウェイ元帥の最後」
第36章 「ジンウェイ元帥の最後」──COLD CODEへの遺言
AD2077年1月18日/アラスカ戦線・中国人民解放軍 最終司令室
焦土と化した基地の奥。
鉄の扉を越えたその先で、ジンウェイ元帥は待っていた。
彼の背には、かつて戦場を駆けた重装甲パワーアーマーがあったが、今や脱ぎ捨てられ、白い将校服を静かに纏っている。
その前に立つのは、ネイト軍曹率いる第108連隊・T-51B装備部隊12名。
吹き荒れた死闘の末に、唯一残った指揮官と兵士たちの「対話の場」が、今ここに成立していた。
ネイト軍曹は、ヘルメットを外して一歩前へ出る。
銃口は下げたまま、深く息を吸って、短く言った。
「元帥。……投降をお願いします。もう、これ以上の犠牲は要らない」
ジンウェイはしばらく黙っていた。
重く沈んだ眼差しでネイトを見つめ、やがて静かに頷いた。
「……若いな。まるで、昔の自分を見るようだ」
その声は、敵将のものとは思えないほど柔らかく、そして疲れていた。
「よかろう。私の敗北だ。君たちに、降伏する」
パワーアーマー部隊の兵士たちが警戒を解く。
その瞬間、空気が変わった。
ジンウェイは、最後の力を振り絞って椅子に腰を下ろし、懐から一つの金属製ホロチップを取り出す。
「……ネイト軍曹、だったか。君に、伝えておくべきことがある」
ジンウェイ元帥の遺言
「戦争は終わる。だが、**"COLD CODE"**が生きている限り……人類は終わらない。
それは、ただの作戦名ではない。
核より恐ろしい、“魂”に触れる兵器だ。
我が国も、米国も……共に開発していた。だが、止められなかった」
ネイトが目を見開く。
「“COLD CODE”……?」
ジンウェイは頷く。
「それは、核兵器ではない。核戦争を“正義に変える”プログラム。
人類を、記憶と命令で再構築する……地獄のコードだ。
君たちがこの戦争に勝っても、それが残れば……次は地球そのものが燃える。
だから……破壊しろ、COLD CODEを。必ずだ。」
その言葉を最後に、ジンウェイ元帥は静かに目を閉じた。
血も流れていなかった。ただ、命が尽きたように、静かに、穏やかに――
ジンウェイ元帥、戦死確認。
AD2077年1月20日、アンカレッジ戦争終結。
その後
ネイトはホロチップを握りしめ、沈黙のまま立ち尽くす。
後方からやってきたノーラ中佐は、それを遠くから見つめ、言葉を発することなく踵を返す。
この瞬間から始まるのは、“戦後”の物語ではない。
COLD CODEを巡る、新たな地獄の幕開けだった。

『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 第35章 ノーラの地獄突入──
第35章 ノーラの地獄突入──「ジンウェイ元帥暗殺作戦」
AD2077年1月18日・アラスカ戦線・敵最終防衛基地
激戦地・敵中枢施設前線
ノーラ・ヘイスティングス中佐のT-60改良空挺型は、地を蹴り上げるように滑空突入した。
目指すは基地の中枢、ジンウェイ元帥の指揮センター。
しかし、その道は地獄だった。
前方に広がるのは、中国人民解放軍の激烈な抵抗線。
敵の重火器、対空砲火が烈火の如く降り注ぎ、地雷原に続いてはガウス機銃とロケット砲の集中砲火が彼女を狙う。
だが、ここで待っていたのは第108連隊の勇敢なT-51B装甲兵たち。
彼らは特殊兵装の一つ、強力なヌカ・ランチャーを駆使し、対抗射撃の前線を形成。
ヌカ・ランチャーの怒涛の反撃
「突撃開始! 全火力を集中しろ!」
ネイト軍曹の号令と共に、T-51B装甲兵は激しい砲火を浴びながらも前進。
次々と発射されるヌカ・ランチャーの榴弾が敵の機関銃陣地や敵歩兵に炸裂し、まるで火の雨の如く燃え盛る。
敵陣の一部は爆発に巻き込まれ、混乱と悲鳴が入り乱れる。
中国軍の対抗放火戦術は熾烈を極めたが、第108連隊の火力が突破口を開く。
敵陣壊滅
敵の機関銃砲座が次々に爆破される中、前線は急速に崩壊。
中国軍は指揮系統が乱れ、徐々に撤退を余儀なくされた。
「目標地点まであとわずか!ジンウェイ元帥の指揮センターを確保せよ!」
ノーラは戦況を見極めながら、T-60のセンサーで施設内部の動きを読み取る。
緊迫の最終アプローチへ
だが、ジンウェイ元帥の暗殺任務は容易ではない。
重装甲の護衛兵、最新鋭の自動防衛機械兵器が待ち受ける中、ノーラは冷徹な眼差しで一歩ずつ進む。
「ここで終わらせる……ジンウェイ元帥、覚悟しなさい」
AD2077年1月18日・アラスカ戦線・敵最終防衛基地地下司令室前
弾丸の音が止んだ。火と血の匂いが、ただ静かに空気を満たす。
ノーラ・ヘイスティングス中佐が滑るように瓦礫の中を進んだとき、
その視界に映ったのは―― 地面に倒れたジンウェイ元帥の亡骸。
距離、およそ100メートル。
その両脇には、T-51Bの外殻が傷だらけのハリストン少佐と、片膝をつくネイト軍曹が立っていた。
しかし、不可解だったのは――
ジンウェイの死体に、血の跡が一切ない。
銃創も斬撃も見えず、ただ穏やかに眠るように冷たく横たわっていた。
ノーラは、一歩だけ進み、冷笑を浮かべる。
「……交渉、失敗したのね」
その言葉に、誰も答えなかった。
ノーラはそれ以上近づかず、ネイトの顔を見ることもなく、くるりと背を向ける。
そしてそのまま、何も言わずに──
ノーラ・ヘイスティングス中佐は戦場から姿を消した。
数時間後
北アラスカ・氷原の地下、誰もいない通信施設跡地
雪解け水の滴る、ひび割れた床の上で、ノーラは一人、仮設コンソールに座っていた。
燃え残った軍装。背中にはもう、あの赤い階級章はない。
そして彼女は、ただ独り言のように、呟いた。
「……中佐としての役割は、これで終わりね」
「生き残ることに、期待なんてしていなかった。
ネイト軍曹、お前にこの階級を明け渡しても――問題など、何もない」
「たとえ、お前がこの後死んだとしても……悲しみなど、あたしには無い。」
「この先に待つのは、望まない“地獄の平和”。
望まない“妻”としての振る舞い。そんなもの、もういらないの」
ノーラはゆっくりと、肩の部隊エンブレムを外した。
それは“英雄ノーラ”を象徴する最後の証だった。
「英雄の名前も、階級も──
最初から、あたしには必要なかったのよ。」
「……この英雄の名を、お前にあげる。ネイト軍曹」
彼女の目に涙はなかった。ただ、静かに立ち上がり、最後に背中越しに呟いた。
「名誉なんて、誰かが背負えばいい……あたしは、もう、要らない」
そして、再びノーラ・ヘイスティングスは“影”へと還っていった。

『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 第34章 「パージ・ザ・コア」
第34章 「パージ・ザ・コア」
パージ・ザ・コア”作戦 第2段階:パルスシールド遮断/空爆突入
第108連隊の目標は明確だった――
敵中国人民解放軍が設置した**最終防衛基地前の「パルスシールド」**を遮断すること。
このエネルギー障壁を無力化できなければ、どれほど強力な空爆も基地本体に届かない。
吹雪の中、第108連隊の前衛部隊は死を覚悟で遮断装置群へ突入した。
対人地雷原、ガウス機銃砲塔、プラズマ投射タレットが閃光と業火を撒き散らし、前進するT-51B部隊を次々に焼いた。
「遮断ユニット、見えた! 高圧ケーブル4本……ハリストン少佐、あれを壊せば!」
「行け! ネイト! この部隊はお前に任せる!」
〔T-0:55〕
上空3,000メートル──爆撃中隊“ミズーリの炎”展開
氷雲を突き破って、**300機の改良型B-29“スカイハンマー級”**が進撃していた。
その姿は、第二次大戦の亡霊のようでありながら、現代兵器として新たな死を届ける。
しかし、敵の対空陣地は想像以上だった。
ガウスタレット、EMP照準レーザー、熱追尾式SAM弾道、EMP雲射出砲台──
まさに“天空の絨毯爆撃に対する鉄の暴風”。
「落ちるぞォォォォォ!!!」
味方機が燃え、爆発し、残骸が地上に降り注いでいく。改良B-29は20機以上が開幕10分で撃墜された。
その中には、降下準備中の人間ミサイル型ユニット搭載機も含まれていた。
〔T-0:48〕
パルスシールド遮断──成功
ネイト軍曹率いる突撃部隊が、最後の遮断中枢の爆破に成功。
電磁障壁がバチバチと崩れ、基地上空が**“無防備な空域”**へと変貌する。
ハリストン少佐が無線を叫ぶ。
「こちら第108連隊、コードブラック完了! パルスシールド、消失!空爆部隊は進入可能、繰り返す、進入可能だ!」
その直後――
上空から3基の人間ミサイルユニットが切り離される。
〔T-0:45〕
第一波・人間ミサイル降下開始
轟音と共に、ノーラ・ヘイスティングス中佐の乗った特別仕様T60パワーアーマー人間ミサイルが火を噴いた。
「こちらノーラ……《コード・シグナス》実行する。
目標、敵基地中枢補給炉へダイレクトアプローチ。パージ開始まで、あと3分」
ブースターが爆発的な推進を起こし、彼女の身体は灼熱の尾を引いて、燃え尽きるほどの速度で敵基地に突入していく。
――それはまさに、戦術兵器ではなく、“人間そのもの”を兵器とする地獄の作戦だった。
作戦名:「パージ・ザ・コア」
AD2077年1月/アラスカ戦線
〔T-0:03〕
上空・改良型B-29 “ミズーリ・エンジェルⅢ号”/高度9800メートル
凍てつく雲海を切り裂き、“ミズーリ・エンジェルⅢ号”が目標空域に突入する。
機内の振動が止まらない。弾幕を潜り抜けるたびに、船体がきしみ、爆風が機体を揺らす。
ノーラ中佐は人間ミサイル・TYPE-Zパッケージを装着し、背部ジェットブースターに火を入れる。
コクピットには彼女一人。だが、その瞳には恐怖の欠片もない。
「……こちらノーラ。投下準備完了。全システム・グリーン。行くわよ、地獄へ」
ハッチが開き、ノーラ中佐は自ら“投下”された。
炎が彼女の背を包む。
空を裂き、重力と速度と戦いながら、真下の弾幕へと突っ込んでいく。
その周囲には、他の2基の人間ミサイル――彼女の部下たちもいた。
だが──
「ヒット……人間ミサイルNo.2、墜落! No.3……誘導外れた!」
対空火器の集中砲火が次々とユニットを貫いていく。空中で爆散する金属、ブースター、そして命。
ノーラの通信に混じる部下の断末魔。
「──中佐……目標まで……無理……っ」
〔T-0:01〕
地上・第108連隊 前線部隊/補給炉前線ゲート
ネイト軍曹はT-51Bの装甲を焼かれながら、遮断施設の奥へと駆け込んでいた。
ガウス機銃が背中をかすめ、爆風で吹き飛ばされたが、片膝で立ち上がる。
「これで……終わらせる!!」
目の前の操作盤。“遮断スイッチ”。
彼がボタンに手をかけた瞬間、シールドエネルギーが電磁波のように暴れていた。
もし起動に失敗すれば、彼自身が焼かれる。だが――
ネイトは、押した。
「パルスシールド、ダウン! 空域、開放完了!」
〔T-0:00〕
ノーラ・ヘイスティングス中佐──標的地点、突入。
「目標地点、確認……パージ実行!」
ノーラは高速落下の最中、背部パージ装置を起動。
爆発的に外れる人間ミサイル装甲。中から現れたのはT-60空挺強襲装備型。
同時にパラシュートが展開。
弾幕の隙間を抜けたその姿は、まるで空に舞い降りる死神。
降下と同時に、ノーラは肩部のジャイロ安定装置とブースターを再起動。
地面すれすれで体勢を整え、着地と同時に滑空ダッシュ──そのまま敵補給炉ゲートへと突入した。
空が裂け、地が震え、今、“作戦の本体”が始まる。

『FALLOUT COLD CODE』 外伝 アンカレッジ戦争 第33章 第三の動脈──「敵戦力殲滅作戦」
第33章 第三の動脈──「敵戦力殲滅作戦」
AD2077年1月18日・アラスカ戦線・第13航空機動支援基地
寒冷な吹雪の中、氷点下30度の格納庫内で、ノーラ・ヘイスティングス中佐は最後の準備に取り掛かっていた。
鉄製の床に寝転ぶようにうつ伏せの姿勢をとり、精密な作業を無言で続けている。彼女が組み立てていたのは――人間ミサイルのブースターパーツ。
ノーラの背中には改造型T-60パワーアーマー、それも通常のT-60ではない。ステルス機能と短距離滑空能力を持つ空挺仕様(Type-Raider.AVX)。
その足元には旧式の**B-29爆撃機を改良した“ミズーリ・エンジェルⅢ号”**が待機していた。
「……三発分。全部、使い切るわよ」
静かに立ち上がったノーラは、3つの人間ミサイルユニットのうち最も重装型を自らの背に接続した。
“ジェットインジェクター点火準備完了”
システム音声が流れる。もう逃げ道はない。
作戦名:「パージ・ザ・コア」
深夜3時、第3空軍支援部隊の指揮系統がノーラの単独突入許可を下す。
改良B-29は高度9,800メートルへと上昇し、降下座標:チュクチ半島補給コア第12施設が目標と設定される。
「起爆範囲に入ったら、手動でパージを……ノーラ、絶対に生きて帰れ」
ヘッドセットの中、リンクス大尉の声が震えていた。
ノーラは三連型人間ミサイルユニットの一基目として、凍てつく空へと投下される。
ジェットブースター、点火――
爆音と共に彼女の身体は、赤く燃える彗星のように夜空を裂いた。敵陣中央へ、一直線。
着弾の寸前で自動パージ、T-60装甲が分離し空中で姿勢制御。次の瞬間、パラシュートが展開され、真下の戦場地帯へとノーラ中佐が舞い降りた。
爆風が背後で上がる。人間ミサイルの残骸が敵地を焼き尽くし、ノーラは炎の中、ひとり歩き出す。
作戦名:「パージ・ザ・コア」
〔作戦発動 T-2:00〕
場所:キメラ山脈・第108連隊前線野営地(標高1,900m)
冷たい風が凍土を削り、戦地を覆う白銀の静寂を切り裂いた。
午前3時45分、第108連隊は「敵戦力殲滅作戦」の発動を正式通達。
指揮幕舎の中で、ハリストン少佐は最後のブリーフィングを行っていた。地図には赤いラインが引かれ、**「敵コア補給線」**と記された3本の動脈のうち、最も防衛が厳重とされた“第三の動脈”が今回の標的となる。
「目標は、チュクチ高地補給拠点12号……ここを叩けば、敵の中枢補給ラインが崩壊する。
だが、問題は迎撃用のGAUSS機銃タワーとドローン網だ。正面突破はまず無理だと考えろ」
室内には低く緊張した沈黙が広がる。その中で、ネイト軍曹は静かに立ち上がった。
胸にはヴィンテージ仕様のT-51Bパワーアーマーが装着され、表面には焦げたような戦痕と、無数の再塗装痕が見える。
「俺たちが陽動に出ます、少佐。奴らの目をこっちに引き付けてください。……その間に、ノーラ中佐が落とすんだろ、“第三の牙”を」
ハリストンは頷く。
「作戦名:パージ・ザ・コアは、その名の通り敵の“心臓”を焼き尽くす計画だ。……ノーラ中佐は、既に上空のB-29改で待機中だ。
我々は地上から敵を撹乱し、降下ルートを確保する。作戦実行まで残り118分。全ユニット、即時展開準備!」
〔T-1:30〕
雪原移動部隊展開/陽動開始ルート構築
ハリストンとネイトはT-51Bスノーカモ仕様を着装した状態で、先行チームのリーダーとして部隊を牽引。
白い霧の中、静かに進む兵士たちの足音と、低くうなりを上げる冷却ユニットの音だけが響く。
背後では、携行型EMP地雷と熱源デコイを設置する技術兵が、黙々と罠を張っていた。
「どうせ“パージ”の後は地図から消える場所だ」
と誰かがつぶやいたが、誰も返さない。
前進ルートの終着点、標高2,300mの尾根には――
敵前線基地12号が赤外線センサーと対空レーダーで周囲を覆っていた。
だが彼らは知らない。2時間後、その空を貫いてくる“紅の隕石”のことを。